「お坊さん×IT」!【hasunoha】代表の堀下氏にプラットフォーム運営について聞いてみました

| web雑学

こんにちは、編集・ライターの伊藤です。
子どもの頃なりたかったものは「お坊さん」でした。理由はシンプルです。お盆の時期になると婆ちゃんがどこからか出してくる「木魚」でタイトなビートを刻むことに夏を賭けていたからです。そのせいか今でも「木魚」を見ると冷静ではいられません。

さてそんなお坊さんですが、【hasunoha(ハスノハ)】というお坊さんが人生相談にのってくれる「Q&Aサイト」をご存知でしょうか?

堀下剛司氏が個人でのプロジェクトとしてアントレプレナーを務める【hasunoha】は東日本大震災を機に堀下氏が感じた「日本人の心に眠っている美徳を掘り起こせばもっとニッポンは優しくなれる」をキーコンセプトに運営されるwebサービスです。

一聴すると「ちょっと変わったwebサービス」に聞こえるかもしれませんが、堀下氏の「視線」には現代のやや形骸化しつつある仏教ひいては日本の文化に対するある思いがあるようです。

――この【hasunoha】というプラットフォームが実現しようとする世界はどのような世界なのか?

【hasunoha】のアントレプレナー堀下剛司氏にお話をうかがいました。

01

【hasunoha】の「いま」。そして「ヒト」の集めかた

――まず【hasunoha】の現在のアクセスや登録者の状況など、お教えいただける範囲でお願いします。

利用者数は非公開ですが、登録いただいているお坊さんの数は先日100名を超えました。アクセスの伸びは急激でないですが順調に推移しています。

03(【hasunoha】直近9カ月のアクセス推移)

――【hasunoha】の一般ユーザーの方のユーザー属性はどんな感じでしょうか?

男女比は「2:8」くらいで女性が多いです。以前だとユーザーの年齢層は年齢は40代中心で10代はいませんでしたが、最近では30代が増え10代の方も多いです。年齢層は広がっています。また職業分布は特筆するところはなく、世の中の比率と大きく変わりません。

――【hasunoha】はプラットフォームという形態上、「お坊さん(回答者)」と「ユーザー(質問者)」の双方を集めなければなりませんが、こうした「ヒト集め」はどのように進められたのでしょうか?

まずは回答してもらえる僧侶の方を集めることに注力しました。ここで重要だったのが、【hasunoha】運営に協力してくれるお坊さんを探すことでした。

実際に自分でもtwitter上で僧侶と思われる方200~300名にメッセージを送ったりしましたが、反応は芳しくありませんでした。

ですが非常に幸運なことに、家族の縁で、浄土宗青年会関東ブロックの理事を当時されていた光琳寺の井上広法さんという方と出会えました。この方に【hasunoha】のコンセプトを語ったところ共感していただき、【hasunoha】プロジェクトに参画いただけることになりました。井上さんに出会っていなければ、【hasunoha】は絵に描いた餅で終わっていたと思います。

井上さんは、松本紹圭さんという先進的な活動をされている僧侶の方が主催する「未来の住職塾」に参加しておられるのですが、そこに参加されている僧侶の人脈も使って【hasunoha】に参加いただける方を募りました。

(参照:http://taka.hasunoha-blog.info/start/

【hasunoha】はインターネットで一般の方の悩みに文章で回答するというものですが、文字に残ることでお坊さんにとってはリスクを伴うものであります。それを乗り越えてでも回答したいという僧侶の方は【hasunoha】以前にも熱心に社会活動をされていた方が中心でした。

僧侶の方から【hasunoha】に賛同していただけたのは「生きるための仏教」という側面があるのではと感じています。「葬式仏教」や「坊主丸儲け」と一部から揶揄を受けてしまっている現代のお寺やお坊さんですが、一方で【hasunoha】に回答僧として申し込んでいただく方のご意見を伺うと、仏教の本来の目的である「衆生救済」の場を求められていたのでは?と感じることもあります。

一般ユーザーは、他のQ&Aサイトにはない高品質な回答を読んだ読者が少しづつ増えるにしたがって、facebookやtwitterでシェアしてくれる方が出てきました。【hasunoha】の一般ユーザーの方はお坊さんから質の高い回答を提供することを心がけることで自然と増えていきました。

【hasunoha】の運営ついて。コンテンツの担保とユーザーの反響

――【hasunoha】で回答(コンテンツ)の品質を高めるためにはどのような取り組みがあったのでしょうか?

回答者のお坊さんに対して実名登録を推奨したことで、回答に僧侶としての責任感が伴い、それが結果として全体の回答の質を高めました。先進的でリスクを恐れず世の中を変えたいという僧侶からの真剣な回答が【hasunoha】の世界観を作っていきました。それに大きく寄与してくれたのが初期から参加いただいている、川口英俊さん(http://hasunoha.jp/users/16)と浦上哲也(http://hasunoha.jp/users/17)さんでした。

【hasunoha】の回答を見た僧侶の方の感想として、「あんなすばらしいこと私には書けないよ」といって二の足を踏まれる方もいらっしゃいます。でもそれが逆に線引きとなって【hasunoha】の個性やブランドなり高品質なコンテンツを保っているともいえます。

――【hasunoha】を運営されていて、ユーザーからの反響およびお坊さんからの反響としてはどのようなものがあるのでしょうか?

それぞれの反応は、リリース前/リリース後/現在で変わってきています。

【hasunoha】リリース前の反応は、

  • お坊さんに質問なんてしない(一般ユーザー)
  • ネットで回答なんてできない(僧侶)

という反応でした。

リリース直後は、一般ユーザーには十分なサービス告知ができず反応を伺えなかったのですが、僧侶からはネットで宗派と寺院名と個人名を晒して回答するのは自分の宗派の教義に合わないことを活字に残してしまう可能性があること、また、インターネットで顔の見えない相手に文字だけで回答しても解決にはならないだろうという意見もあり、これらを相当なリスクと感じる方が多く、「まぁ、かなり運営は難しいだろう」という反応があったと聞いています。その一方で、「なんかすごいービスができたぞ」という反響もあったことも、先ほどの井上さんから聞いていました。

そして【hasunoha】リリース後しばらくすると、また反響が変わりました。

回答の質が担保され、facebook/twitter上でのシェアが増えていくときによく一般ユーザーの方に話題にしていただけるのが、「有り難しボタン」と「この問答を娑婆にも伝える」ボタンでした。

Facebookの「いいね!」に相当するものとして、「有り難し」を採用したことをここまで話題にしてもらえるとは思いませんでした。仏教の用語や概念をサービスの中に溶け込ませることで、ユーザーにマニュアルを読ませずに「仏教を感じてもらう」という狙いは成功しているといえます。

一方、お坊さんはfacebook/twitter経由で【hasunoha】を知って申込いただくことも出てきました。知り合い(僧侶友達)のフィードに流れる【hasunoha】の記事をみて、「自分もやってみたい」と言ってくれる方が増えていきました。

「有り難し」ボタンとはなにか?

――確かに【hasunoha】に備えつけられている「有り難し」ボタンは、例えばFACEBOOKの「イイね」やyahoo知恵袋の「ナイス」とも違い、また単に「ありがとう」という意味とも異なる独特な「意味領域/コミュニケーション」が成立しているように感じます。この「有り難し」ボタンとはなんなのでしょうか?

02

現在のウェブサービスは検索だけでなく、SNSのフィードが重要だという認識はありました。その意味で、facebookの「いいね!」とtwitterのツイートボタンをつけるのは当初から決めていたのですが、そこに「有り難し」という独自ボタンをつけるかどうかはリリース直前まで決めかねていました。同じようなボタンが複数あっても意味はないからです。

そんなとき、「有り難し」の意味をネットでいろいろ調べていて、「有り難し」の意味の壮大さを知り、これを伝えるべきだという思いが勝ってこのボタンをつけることにしました。

有り難しの意味は以下です。

「ありがとう」。日本語で最も素晴らしいこの言葉を、日本中のたくさんの場面で使える世の中になるように祈りを込めています。
そんな「ありがとう」の語源は「有り難し」という仏教語が語源であると聞きました。
その言葉の意味を知った時に驚愕し、ぜひその気持ちを忘れないようにと思いました。

我々がこの世に誕生できたのは、何千万分の1の偶然と無数の先祖からつないでもらった縁があるからこそであり、その尊さに感謝しましょうという教えです。

「人の生を享(う)くるは難く やがて死すべきもの 今いのちあるは 有り難し」という法句経の一節があるのですが、生きていることは当たり前と思ってしまいがちですが、実はめったにない、有ることが難しい、有り難きことだと。

生きているだけでなく、我々のまわりのすべてのこと、こうやってネットに書き込めることも、それを読んでくれる人がいることも、のどが乾いたら水を飲めることも、電気が灯り明るいことも、数万年前から続いている人類の歴史を見ればごく最近まで当たり前でなかったと考えると、有り難きことですね。
そんな壮大な有り難き気持ちをお坊さんから回答をいただいたら表したいと思いました。それが【hasunoha】の「有り難し」ボタンです。

――【hasunoha】は「生活お役立ち」や「悩み解決」あるいは「癒し」のいずれとも異なり、また仏教の教義を押し付けられるわけでもない、生活の中でこちらが振り向いたときに「すこしだけ寄り添ってくれる」ような立ち位置にあるwebサービスという感じがします。こうした独特な空気感はどのように醸成されていったのでしょうか?

仏教についてはwikipediaに書いてあります。hasunohaでは、「仏教を通じてどう生きるべきかを感じる、ひとりひとりが答えを自分で見つける手助けをする」という考え方が根底にあります。よって一方的な情報の発信でなく、生活に即した双方向性が重要だと感じています。

あとは、サービスの主体をお坊さんからの発信ではなく、一般ユーザー発信で作ったことも影響していると考えています。【hasunoha】では、一般ユーザーに向けて「お坊さんからの寄り添うような素晴らしい回答をいただきましょう」という言い方をしています。お坊さんを発信側にすると、「我々僧侶が皆様のために精一杯寄り添います」という感じになるかもしれません。あえてお坊さんを「向こう側」に置くことで、こちらが振り向いたときに寄り添ってくれる感を出せているのではと感じています。

――最後に【hasunoha】運営を通じて、堀下さんご自身の仏教観/宗教観の変化はありましたか?

【hasunoha】での問答に触れるほど宗教は宗教でなくなり、仏教は仏教でなくなってきています。「宗教とは何だろう?」という問いに対して、「今日も一日楽しく充実して過ごせた。すべてのものにありがとうと心から感謝できる毎日を過ごせるようにする処方箋だ」と思うようになりました。

つまり宗教は考えたり勉強したり信じようとするものでなく、生きるための智慧であり、心の持ち方であり、日常生活に溶け込んで宗教を宗教として意識しなくなることこそが究極なのでは、ということです。

ただしこれは現時点での「感覚」であり、時が経つにつれまた変わってくると思います。それほど「人間とは?幸せとは?」という問題は簡単であり難しいものなんだと思っています。

取材を終えて

「お坊さん×IT」がweb上で成立した【hasunoha】というプラットフォームに立ってみると、これまでお盆/法事/お葬式くらいしか会わなかった「お坊さん」との距離感の変化に気づくことになるでしょう。

この距離感はかつての檀家制度を築いた寺請け制度とは異なる距離感であるのは言うまでもありませんが、もしかすると私たちは「お坊さん」との新しい関係性を【hasunoha】上で取り結ぼうとしているのかもしれませんね。