2016年2月に開催されたマーケティング・テクノロジーフェア(併催:イーコマースEXPO)のレポートは先日お届けしましたが、この展示会では多くのセミナーも開催されました。
今日は、その中で興味深かったものとして、「富士フイルムのデジタルマーケティング戦略」「成功事例・失敗事例に学ぶマーケティングオートメーションの真実」「LINEが開くスマートフォン・ファースト時代の新世代マーケティング」の3つのセミナーの内容を、ご紹介したいと思います。デジタルマーケティングの近況として、参考にしてみてください。
学べる視点が多くあった富士フイルムのセミナー
最初に取り上げるのは、「富士フイルムのデジタルマーケティング戦略」です。富士フイルムと言えば、写真フイルムの衰退という逆風に見舞われながらも、今なお高い収益を誇る企業です(実際にセミナーでもこの話から入りました)。そのデジタルマーケティングがどのように行われているか、大いに気になるところ。興味深く聴講しました。グローバルカンパニーである富士フイルムのやり方をそのまま中小企業に取り入れるのは難しいと思いますが、参考になる点は数多くありました。
セミナーで語られた富士フイルムのデジタルマーケティングは、かつての大企業型のものとは大きく違っていました。マーケティングの効果測定や、それらを用いた分析や改善は、かつては代理店など外部に出されていたはずですが、現在は社内のWEB担当者が行っているということです。A/Bテストの「Optimizly」、ヒートマップの「USERDIVE」、そしてアクセス解析は「Google Analytics」という、中小企業でも導入可能なレベルのツールが(もちろん予算規模は違うでしょうが)多く使われていました。
これらを使って自らデータドリブンの取り組みをしている富士フイルムですが、担当者は決してデータアナリストなどの専門家ではないとのこと。大手のWEB担当者が自ら数値と格闘しているのですから、自分たちではこうした数値把握や分析をしていないという中小企業のWEB担当者は、考えを改めるべきかもしれません。
また、驚かされたのは動画作成にクラウドソーシングを使ったという話です。このセミナーの後に偶然立ち寄った「90 Seconds」というブースがまさにそれだったようです。ここは、プランニングまでは専門スタッフが行い、その後登録クリエイターに制作を依頼していくというやり方で、一般のクラウドソーシングのイメージとは少し違っていました。そのため価格もやや高めでしたが、それでもセミナー内で語られた富士フイルムの評価によると、これまで広告代理店に出していた値段とは雲泥の差で、しかも大満足のクオリティだったとのこと。今後もクラウドソーシングへの発注が増えそうな雰囲気でした。こうした新たなサービスの積極的な活用も見習うべき点ではないかと感じました。ちなみに、以下は富士フイルムがクラウドソーシングを利用して作成した動画のひとつです。
日本の現状に合うマーケティングオートメーションとは?
BtoB分野の営業は、広告から見込客育成強化へとシフト
続いての参加は「成功事例・失敗事例に学ぶマーケティングオートメーションの真実」。題目からいくとMAの成功と失敗の事例をたくさん聞くことができそう…と期待しましたが、さすがに公開セミナーのため、具体的な事例についてはあまり触れられませんでした。それでも役立つことは多くありました。
セミナーで語られた主な内容は次のようなものです。
- BtoB分野で強い会社の営業部門では、予実管理が精緻に行われている。
- 従来の日本のマーケティングは広告を打つこと、新規見込客を多く獲得することだった。
- 今は、MA導入により、見込客の育成プロセスが強化されるという流れに変わりつつある。
- MAツールにはいくつかの種類があり、それぞれのメリット、デメリットを持つ。
ちなみに、このセミナーは、「B-Dash」という新型のMAツールを開発したフロムスクラッチの代表によるものでしたので、このツールがどう成果を上げていくかという話でまとめられました。
セミナー参加前にフロムスクラッチのブースでこのB-Dashの具体的な説明も受けていたのですが、簡単に言うとこれ一つでマーケティングデータの管理と統合、活用が全て実現できるという、ワンストップ型の非常に魅力あるものでした。
日本の実情に合ったMAツールとは?
日本のWEB担当者、マーケティング担当者は忙しく、CMOといった専門職を置く企業もほとんどありません。このような現状を念頭に置き、「目的別に多くのツールの選定をし、それぞれの機能を覚え、さらには使いこなすというのは現実的ではない。だから、必要なものをまとめて提供しよう」というのがこのツールの考え方のようです。
例えばMAツールの代表であるMarketoなどは他のツールとの連携に重きを置き始めていますが、それとは対照的な考え方と言えるでしょう。しかし、日本の現状を考えれば、これはこれで「なるほど」と思えるところもあり、マンパワーが不足する中小企業には特に便利そうだという印象も受けました。
惜しむらくは価格面で、中小企業が導入するにはややハードルが高め。今後、中小企業向けの価格設定が出て来ることに期待したいところです。
LINEはソーシャルメディア以上のもの
LINEはメッセージアプリ。だからこそ、ビジネス活用の可能性あり
セミナーの〆は、LINEによる「LINEが開くスマートフォン・ファースト時代の新世代マーケティング」というもの。最初にあった「プライベートでLINEを使っている方は挙手をお願いします」という質問に対しては、ほぼ全員が手を挙げていましたが、「では、仕事でも活用しているという方お願いします」という質問ではガクッと数が減りました。これには、質問をしたスピーカーの方も苦笑いでしたが、「実際の調査割合と同じ感じですね」と想定通りとのこと。とは言え、法人ビジネスへの活用はLINE全体の中で今最も伸びている事業だそうで、勢いはあるようです。
このセミナーでは、最初に「LINEはメッセージアプリであり、パソコンが広がって来た頃のツールに例えるとメーラーです」と紹介されましたが、この言葉は大いに納得感がありました。LINEはソーシャルメディアだと言われることが多いのですが、Facebookなどとは全く思想が違います。また、パソコンを考慮せず初めからスマートフォンアプリとしてのみの提供を前提としているため、そこでの最適化が図られていることも強調されていました。
そこから、セミナーのテーマ「スマートフォン・ファースト時代」につながっていくわけですが、スマホユーザーはブラウザでネットを閲覧するよりもアプリを使う時間が長くなって来ているそうです。しかし、「だから、これからは企業もアプリに力を入れるべき!」、とはなりません。アプリはインストールの手間があるため新たに入れてもらいにくいし、入れても使わずゾンビ化するというハードルがある、それよりも、「皆が当たり前に使っているLINEをビジネスに大きく活用しましょう」、というのがこのセミナーでの趣旨でした。
マーケティングはボーダレスになっている!?
そうは言っても、広告やマーケティングツールではないコミュニケーションアプリのLINEが、ビジネスでどれぐらい成果が出せるのか?そんな疑問への答えとしては、昨今のマーケティングを象徴するような表現がされていました。それは「あらゆるものに境界線が無くなっている」という言葉です。
つまり、もはや、これは広告、これはコミュニケーション、これはコンテンツ…と従来のように分けてしまったのではユーザーには受け入れられないものになるというわけです。この考えはネイティブ広告にも通じるもの。「広告を拒否するようになったユーザーにどう振り向いてもらうかを、LINE上の新しいマーケティングで今のうちから試行錯誤していきましょう」というメッセージが投げかけられました。
例えば、クーポンをただLINE上で配布するだけならそれは広告。しかし、トークのやり取りの中でユーザーが興味を示し、そこでクーポンを渡せばそれはコミュニケーションの延長上にあると言えます。
また、割引チケットを販売するのではなく、LINEでやり取りをしているユーザーに対して“最前列の興奮をプレゼントしますよ”と「LINEライブ」への招待を送れば、これまでの広告とは違った形になります。このように、LINEの機能を自サービスと組み合わせ、新しいマーケティングノウハウを今のうちから貯めていけば、今後の大きな財産になりそうです。
LINE@のアカウントでもLINEとのシステム連携が可能に!?
中小企業への朗報として、今はLINEビジネスコネクト(LINEと企業システムとの連携を可能にすることで法人向けサービス。公式アカウントを持つ企業だけが利用できる)だけで公開されていた機能が、中小企業でも使えるLINE@のアカウントでも用意されつつあるという話がありました。これが実現すれば中小企業も自社のデジタルマーケティング戦略に、よりLINEを組み込んでいけるようになり、マーケティングが大きく変わる可能性があります。今度の動向に注視してください。
今回のまとめ
- グローバル企業の富士フイルムは、手軽なツールを使ってWEB担当者によるデータドリブンなデジタルマーケティングを推進。クラウドソーシングも積極的に活用するなど、柔軟な取り組み。
- マーケティングの専任者がいない日本企業には、ワンストップ型のMAツールという選択肢も有効か。
- コミュニケーションや広告、コンテンツなどがボーダレスな時代に突入。スマホ利用が多い現代では、誰もが使うコミュニケーションアプリ「LINE」でのマーケティングがますます重要になりそう。
以上、参加したイベント・セミナーのエキスをご紹介しました。デジタルマーケティングのこれからに向けて、ヒントを見つけていただければと思います。
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