2014年、2015年とWEBの中心にあり続けたコンテンツマーケティング。しかし、「今年は淘汰の歳になる」「成功と失敗に二極化していく」、という声をあちらこちらで耳にします。実際のところ、現状、そして今後をどのようにとらえればいいのでしょうか?
多くのWEBマーケティングがそうであるように、この分野でも大きく先行しているのがアメリカ。そこで、その動向を教科書としながら、日本の現状とこれからのコンテンツマーケティングで成功していくための要点を考えてみたいと思います。
コンテンツマーケティングで先を行くアメリカの現状
コンテンツマーケティングの本場、アメリカでは「Content Marketing World」というコンテンツマーケティングの巨大イベントが開催されています。始まりの時には非常に小規模だったそうですが、2015年で5回目の開催を迎え、アメリカの小さな地方都市クリーブランド(Cleveland)に、世界中から大勢の人々が集まって来るそうです。2016年の開催も決定しています。
http://www.contentmarketingworld.com/
コンテンツマーケティングは幻滅期にある?
2015年のこのイベントでは、「コンテンツマーケティングは幻滅期にある」というスピーチが話題になりました。発言の主は、ジョー・ピュリッジ(Joe Pulizzi)というコンテンツマーケティング界の大御所。このイベントを主催するCONTENT MARKETING INSTITUTE(CMI)の創始者でもあります。
この発言は、すでに2014年頃から起こっていた「コンテンツマーケティングは終わりではないか」という論調を背景にしたもの。もちろん彼は、「幻滅されて終わってしまう」と言いたかったのではありません。幻滅期とは、新技術が広く定着していくまでの変化を表す「ハイプ・サイクル」という理論に出てくるものなのですが、それを引き合いにして、むしろコンテンツマーケティングの真価が問われるのはこれからだという話をしたのです。
ハイプ・サイクルとは
ハイプ・サイクルとは、1990年代に提唱された新技術の登場から定着までの変化を表す理論。
「黎明期」「流行期」「幻滅期」「回復期」「安定期」の5つの段階があり、ちょうど中間にあたる幻滅期(Trough of Disillusionment)は、多くの期待や注目が集まった後の失望から来るくぼみで、そこからの回復を経て、安定気に入っていくとされています。
図の引用元:Wikipedia(日本語は当社加筆)
つまり、アメリカでは既にブームとしてのコンテンツマーケティングは過ぎ、期待への反動としての幻滅も見られるようになってきている、そしてそこからの回復や安定を待つ段階に向かっているというのが現状のようです。決して一時的なブームとして消え去っていくのではなく、期待や批判を経て、「むしろこれからが本当の成長を迎える時期」だという見方がされているようです。日本流に言えば、“生みの苦しみ”の時期とでも言えるでしょうか。
論争を呼んだコンテンツマーケティング限界論とは?
これより少し前の2014年には、“CONTENT SHOCK”という過激な言葉でコンテンツマーケティング限界論が提起され、マーケッターの間で何ヶ月にも渡る論議が展開されました。
提唱者はマーク・シェーファー(Mark Schaefer)というやはりコンテンツマーケティング界の大物。その存在感故に、ブログでの「もう、コンテンツマーケティングを続けるのは難しい」という発言が、大きな影響を与えたのです。
Content Shock: Why content marketing is not a sustainable strategy
http://www.businessesgrow.com/2014/01/06/content-shock/
内容は大雑把に言えば、コンテンツが増えすぎて、その量が人間の処理能力を大きく超えてしまったという話。それによって、コンテンツマーケティングで成果を出すために必要なコストは増大し、大企業に有利になり、新規参入は難しくなってきている…と、コンテンツマーケティングを取り巻く環境変化と厳しさを、CONTENT SHOCKという言葉で指摘したものです。
しかしこれには後日談があって、それを解決する策を書いたという彼自身の著作が飛ぶように売れたという出来事があり、見方によってはCONTENT SHOCK論争自体が高度なコンテンツマーケティングだったのでは?とも言われているようです。
マーク・シェーファーの提起が、著作販売のためのマーケティングだったのか、アンチテーゼによって論議を起こし、コンテンツマーケティングを活性化させようと言う意図だったのか、その真意はわかりません。しかし、大きな流れとして、アメリカのコンテンツマーケティングは一過性のブームを過ぎ、批判もありつつ、また淘汰されつつ着実に定着に向かっているとみなせそうです。
日本のコンテンツマーケティングの現在地
コンテンツマーケティングという言葉は比較的長く使われているので、WEBマーケティングの世界にいると「日本も既に幻滅期に入りかけているのでは?」と感じる人もいるかもしれません。しかし実際には、ハイプ・サイクルで言えば、まだまだ流行期だという意見の方が大勢をしめているようです。アメリカでの流れが遅れて日本に入って来ることを考えても、幻滅期となるのはまだ当分先のように思えます。
失望の声も聞かれ始めた現状。その先はまだ不透明
しかし、意外と早いタイミングでそれがやって来ることも考えられます。また、流行期と幻滅期が同時進行する場合もあるでしょう。実際、ややそのような雰囲気が感じられるようにも思います。というのも、日本とアメリカのコンテンツマーケティングの性格には少し異なる部分があるからです。
戦略重視、データ重視のアメリカとは違い、日本では「コンテンツを増やして検索上位にする」こと、つまりSEOを目的としてコンテンツマーケティングが広がったという背景があります。SNSでシェアされる面白いコンテンツやバズを狙ったようなコンテンツは多く見られましたが、目的や戦略が大きく欠落しているケースは決して少なくありません。
そのため、Googleの変化などによりコンテンツを増やすだけでは検索順位が上がらない状況になると失望が生まれます。また、「検索順位が上がってもコンバージョンは伸びない」「話題にはなったけれど売上はあがらない」「PVは伸びていても続けるべきかどうか迷う」といった声は既に多く出始めています。これらが今後にどう影響していくか…、今年後半にはもう少しはっきりしてくるのではないでしょうか。
日本のユーザー特性も今後に影響?
また業種や業界によっては、もしかしたら日本のユーザー特性なども影響するかもしれません。
アドビの調査によると、日本は海外に比べて「長めの記事より、話題になっている短めの記事を多く閲覧したい」人が多いという結果が出ています。
出典:「アドビ、消費者のコンテンツに関する意識調査の結果を発表」
http://www.adobe.com/jp/news-room/news/201512/20151218_content_research.html
対象がミレニアル世代(20代中心)であることなど、これだけで一般化して考えることはできないと思いますが、「日本人はあまりネットからきちんとした情報を取得しようと考えていない」「多くの違ったメディアに接触したがる」「軽く楽しめるライトなコンテンツを求めている」などという傾向が強いという可能性は考えられます。
もしそうであれば、「自サイト内でじっくり見込客を育成していく」「きちんとした記事を提供してファン化する」など、ナーチャリングやコンバージョンといったコンテンツマーケティングの本質には親和性が低い国民性ではないか?という仮説も成り立ちます。少なくとも、自社がターゲットとする対象層のコンテンツ接触行動などについては、詳しく調べてみる価値があるのではないでしょうか。
マーケティングの本場のアメリカでさえ、これからのコンテンツマーケティングは厳しくなるとされています。前述のマーク・シェーファーは、「これから数多くの成功と失敗を見る」「淘汰が始まる」「一層の努力をしなければならない」というメッセージを出しています。日本のコンテンツマーケティングは、さらに強い心構えと準備をして取り組んでいくべき時が来つつあるかもしれません。
コンテンツマーケティングを成功させるために
最後に、あらためて、コンテンツマーケティングに臨むための心構えと重要ポイントについてまとめておきたいと思います。
まずコンテンツマーケティングは“魔法の杖”ではないことをあらためて認識することが大切。日本ではこの分野に限らず、マーケティングと聞くとそれで何かが一気に解決できるように考えがち。そのため、急に幻滅が襲って来て、回復も定着もしないままやめてしまう傾向があります。これでは、次につながっていきません。
そうならないためには、やはり「KGI」「KPI」をきちんと決めて取り組むということしかありません。実際、日本のコンテンツマーケティングの課題として、「効果測定をどうすれば良いかわからない」という声は既に多く出ています。これを解消するためにも、KGIツリーをつくるところからやりなおしていくことが欠かせないでしょう。以前このブログでも紹介した、シナリオと一体になった「コンセプトダイアグラム」で紹介した以下のテンプレートを活用いただいてもいいかと思います。
時間をかけて本格的なものはつくれなくても、最低限この程度のシナリオを用意しておけば、データに基づくPDCAは実現できるはず。昨年2015年頃から日本でも、データ分析を重視する「データドリブンなマーケティング」がようやく定着への動きを見せ始めてきました。そのような動きをとれる事業者だけが成果を生み出し、戦略が無いコンテンツマーケティングは淘汰されていくでしょう。
更にその前に、「そもそも、自社のビジネスにコンテンツマーケティングが適しているのか?」という見極めも大切かもしれません。例えば海外では、コンテンツマーケティングの専門家が意見を求められ、「貴社の場合はコンテンツを作るお金を商品のサンプリングに回した方が良い」と言い、それで成功を収めた、などという話も伝わって来ます。他にも、「コンテンツマーケティンよりも今は広告を活用した方が良い」、などというケースもあるでしょう。
繰り返しますが、コンテンツマーケティングは魔法の杖ではありません。ブームに期待してなんとなく始めた…というような場合には、思い切ってここで見なおして行くことも大切かもしれません。貴社のビジネスに最適なマーケティング手法を選ぶこと、それがデジタルマーケティングそのものの出発点になります。
今回のまとめ
- 海外でのコンテンツマーケティングはブームの後の落ち込みを経て安定を迎える兆し。
- 日本もこの波がやって来るだろうが、早々に二極化していくことも考えられる。
- ブームで終わらないためには戦略やシナリオを決め、効果測定とPDCAを。
- そもそもコンテンツマーケティングが自分たちに最適な手法かを見極めることも大切。
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